鮮やかな新緑が、石畳の並木道に彩りを添えていた。うららかな春の日射しは肌に快く、道行く人々の顔もどこかのんびりとしている。瓦の屋根の彼方では、蒼く霞む山の頂きに巨大な神社が建っていた。
 極東の島国『ユミシマ』の、伝統的な木造建築の連なりを眺めながら、俺は感嘆の息を漏らした。
 これが異国情緒と言う奴か。あらゆる意味で、俺の出身地であるリギシュ領ゼルドラとは正反対な国だ。
 摩天楼を形成する高層建築。汚染物質を垂れ流す重化学工場。軍用剣を腰に下げた装甲警邏隊。終始行き交うオートモービルの群れ。
 ゼルドラに限らず、西側諸国はそういう所だ。
 だが、ここは違う。
 外観も、文化も、政治形態も、完全に異質。
 その異質さが、なぜか心地良い。
 二振りの剣を佩いている自分が、ひどく場違いな存在に思える。
 のどかだが、華やかな街。
 そして平和な街。
 船酔いと闘いながら海を渡ってきた甲斐があったというものだ。
「さて、と」
 俺は晴れやかな気分で街を見て回……ろうとして、はたと立ち止まった。
 そうだそうだ、観光に来たんじゃないんだよ。
 ぽかぽかとした陽気に、つい平和的な気分になってしまったが、俺がこの国に来た本当の目的は、ユミシマ風に言えば“道場破り”と言うやつである。
 この地に伝わる剣術は、世界的にも独特で洗練されたものと聞く。太刀筋は薄く鋭く、恐ろしく速い。達人ならば、剣風だけで敵を断ち切る事ができるらしい。
 スゲェ。
 ……なんだか子供じみた理由だが、その現実離れした技を是非見てみたい。そしてできれば打ち破ってみたい。そんな気持ちが強いのだ。
 すでに片っ端から通行人を捕まえて、この街に住んでいる筈の達人の住所は聞き出した。
 達人の名はジン・テツヤ。
 『鬼眼(キガン)』と呼ばれる特殊な読動術を行使し、数十年来ただの一度も傷を負った事がないという、超人的な剣豪……らしい。
 ちなみに、捕まえた通行人のほぼ全員が、「やめとけ。あのジジィは強いぞ」みたいな事を言ったのだが、もちろん引く気はない。
 壁は高い方が超える価値があると言うものだ。
 俺は大雑把な地図(最後に出会った、親切な駄菓子屋のお婆さんに書いてもらった物だ)を広げ、勇んで歩き始めた。


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