「やっぱり『基金』の連中が何らかの妨害をしているんじゃないですかニャン?」
「そう思って、ディルギスダークにはポートガーディアンどもを締め上げるよう言っておいたのかもな」
「うわぁ……さすがに同情しますニャン、それ……」
ヴェステルダークは緑茶を一口飲んでから、刃物のような切れ長の目をタグトゥマダークの頭部に突きつけた。
「……で、頭のそれはなんなのかもな。いわゆるアキバ系という奴なのかもな?」
微妙に違う。
「ニャ、ニャはは……」
タグトゥマダークは頭をかきながら事情を話した。夢月に対して一度しゃべっているので、さすがにもう落ち着いている。
「……と、いうわけなんですニャン」
「ふむ」
ヴェステルダークは緑茶をもう一口すすった。
「前例が、ないわけではない、かもしれない、のかもな」
「ほ、ほんとですかニャン!?」
できれば二重否定の上に疑問系を二つも重ねないでほしいと思った。
「私が生まれる前の記録なのだが……今から五十年ほど前、この地域で起きたことかもな」
ヴェステルダークは、ぽつぽつと語り始めた。
「当時からここらへんはどうしようもないド田舎だったのだが……あるとき、まったく突然に、極めて局地的な地震が発生したのかもな。建物はほぼ全壊し、絨毯爆撃でも受けたかのような有様だったという。火災や地すべりなどの二次災害も頻発し、多くの人々が致命的な被害を受けたのかもな。恐ろしい災禍だったのかもな」
持っていたペンを弄びながら、言葉をつづける。
「だが、本当に恐ろしかったのは、その後なのかもな……」
なんで怪談みたいな語り口なんですかと突っ込みたかったが、空気を読んで黙るタグトゥマダーク。
「人間がな、歪んだのかもな」
その言葉の響きに、寒気を感じた。
「……歪んだ? どゆことですニャン?」
「比喩ではないのかもな。精神ではなく、肉体が、本当に歪んだとしか思えない有様に変異したのかもな。生き残った人々は、変わり果てた自分の姿に悲鳴を上げたという」
「い、一体、どんな姿に……?」
「直立二足歩行のタヌキになった」
「超かわいいーー!?」
「もっさもっさの毛皮に包まれた住民たちは、そのお陰で家がなくとも冬を乗り切ることができたらしいのかもな」
えらくメルヒェンな光景がタグトゥマダークの脳内に広がった。
「よ、よかったじゃないですかニャン」
「だが、本当に恐ろしいのはそこからだったのかもな……」
「まさか元に戻らなかったんですかニャン!?」
「『神樹災害基金』の前身である軍属研究機関が、事態の解明を期してこの地域を数カ月にわたって封鎖し、調査部隊を派遣したのかもな」
「そ、それで……?」
「タヌキとなった住民たちに身体検査および質疑応答を行い、さらに一帯の地質を調査した結果、さまざまな事実が浮かび上がってきたのかもな」
そこで緑茶を飲み干すと、ヴェステルダークは声を低くした。
「局地地震とタヌキ化が起こった範囲が完全に一致していたのかもな。つまり、この二つの現象は同じ原因によるものだったらしいのかもな。さらに、タヌキ化した住民たちの話によると、地震の直前に『山の向こうで巨大な光の柱が見えた』というのかもな」
光の、柱。
バス停使いたちにとっては、何らかの攻撃にしろ、召喚時の余波にしろ、そういった現象は見慣れた存在だ。
「バス停、ですかニャン?」
しかし、山の向こうからも見えるほどの光とは、ちょっと尋常ではない。
「結論から先に言おうか。この地のどこかに《楔》が安置されている、と仮定すれば、辻褄が合うのかもな。事実、被災範囲は、当時すでに存在が確認されていた他の《楔》の管理面積とほぼ等しく、さらにこの異変において地中の〈BUS〉が一切流動しなくなっていたことも確認されているのかもな」
ヴェステルダークは息を吐き、こちらを見た。
「この『地脈の流れが消失する』という性質から、推定上の存在である《楔》には皇停『禁龍峡』という名が与えられたのかもな。一連の事件の原因は、この《楔》が暴走を起こしたことにあったのかもな」
皇停『禁龍峡』。すべての原因と目される、仮定上のバス停――
それからの顛末は、極めて意味不明なものであった。
皇停『禁龍峡』の位置を特定すべく、調査部隊とタヌキ住民たちは山々を虱潰しに探し回ったのだが、二週間が経過しても手がかりは一切見つけられなかった。
「そして、本当に恐ろしいのはここからかもな……」
気に入ったんですかその言い回し。
●
その後のヴェステルダークの話を要約すると、二点に絞られる。
・探索途中で隊員数名が行方不明になるという事件が発生したこと。
・その直後、タヌキ化した住民が一斉に元の体に戻ってしまったこと。
以上、事件はそれで終わり。皇停『禁龍峡』の正確な位置はつかめぬまま、調査部隊は撤収し、その後政府主導の復興支援が始まったのであった。
結局、何一つ確かなことは判明しないうちに、この『昭和タヌキ騒動ぽんぽこ事件』は終結を迎えたのである。
行方不明になった隊員たちは、二度と戻ってはこなかったという。
●
「……つまりその、僕のネコ耳も、皇停『禁龍峡』が原因ニャのだと?」
「少なくとも関連を疑うには十分なのかもな」
「ううう……」
「イレギュラーはもうひとつあるのかもな」
「なんですニャン?」
「《楔》とは別に、奇妙なバス停が見つかったのかもな」
タグトゥマダークは肩をすくめて笑った。
「奇妙じゃないバス停なんてあるんですかニャ?」
「なんかうねうねしていた」
「奇妙すぎる!」
「しかも、この地域の〈BUS〉流動網から孤立しているのかもな」
……正確には、完全に孤立しているわけではなく、地脈のネットワークからエネルギーをもらうばかりで、自身からは一切エネルギーを吐き出さないという凄まじい寄生虫ぶりらしい。
当然バスなど通っていない。
バス停なのに。
「あの、それ、本当にバス停なんですかニャン? なんか聞く限りでは〈BUS〉を食べる宇宙怪獣みたいな感じがするんですが……」
「あながち間違ってないのかもな。少なくとも、そのバス停のせいで朱鷺沢町近郊の〈BUS〉相は秩序だったサイクルを維持しにくくなっているのかもな。《楔》を擁する土地であるにも関わらずド田舎なのはそのせいなのかもな」
〈BUS〉は単なる破滅的なエネルギー流というだけではない。淀みなく循環していたなら、その地域の自然や文明を活性化させる霊的な作用が働くのだ。《楔》のお膝元の地域ともなれば、超サイバーな未来都市トキサワシティーになっていてもおかしくなかったはずなのである。透明なチューブがうねりまくりである。
だが、現実にはそうではない。
謎のバス停によって〈BUS〉を吸い取られ、循環の流れをかき乱され、朱鷺沢町はド田舎との誹りを免れぬほどの過疎ぶりとなっているのである。
「……そのバス停の名は」
「第三級バス停、『腐りゆく唇』」
「なんです、それ? 地名じゃないですニャン?」
「不明かもな。丸看板にそう書いてあったのかもな」
「確かに奇妙なバス停ですニャー」
「うねうねしてるしな」
「だから奇妙すぎる!」
●
いや、さて。
ここで、篤サイドに目を向ける。
タグトゥマダークを撃退した後も、篤は自らのウサ耳を誇らしげに揺らしながら学校への道を急いでいた。
攻牙と射美は、篤の周りをぐるぐる歩きながら、ウサ耳を仔細に観察している。
「射美が思うに、諏訪原センパイはきっとウサ耳たちが平和に暮らす国『ウサミニア』のウサミミ王子なんでごわすよ!」
「そんな国は見たことも聞いたこともないがどうせ城はウサミミ城で王様はウサミミ王で大臣はウサミミ大臣なんだろ!」
「ウサミニア……それはウサ耳たちが平和に暮らす国……国民は全員ウサ耳で、シルバニアファミリーばりのキュートでメルヒェンな騒動が毎日起こってるカンジでごわす♪ そんで三十分枠のラストはいつも『もう○○はこりごりだよぉ〜!』『はははは、こいつぅ!』みたいなカンジでみんな笑顔でエンディング突入でごわすよー♪」
「いやに具体的だなオイ」
「末端価格で八万ドルでごわす♪」
「何が!?」
「犠牲もなしにユートピアが築かれるとでも思ってたでごわすかーッ!」
「繁栄の陰で何が行われてるんだウサミニアッ!」
――お前たち勝手なことを言っているな。
篤は二人の応酬を適当に聞き流す。
それはいいのだが、道中で知り合いに会うたびに、
「ちょっ……諏訪原! 何それ!」
「うむ、起きたら生えていた」
というやり取りを繰り返すものだから、五回目ぐらいでなんか飽きてきた。
突然の生徒会長。
「す、諏訪原君……何の冗談だいそれは?」
「うむ、起きたら生えていた」
突然の不良。
「諏訪原てめえ、気でも違ったか!?」
「うむ、起きたら生えていた」
突然の風紀委員長。
「こ、こら諏訪原ー! なんなんだ貴様その格好は!」
「うむ、起きたら生えていた」
突然の後輩。
「あ、あの、諏訪原先輩……よくお似合いだと思いますよ……?」
「うむ、起きたら生えていた」
突然の変態。
「やあ篤! みんなの股間のソムリエ、闇灯謦司郎だよ! 今日の朝立ち具合はどうかナ?」
「うむ、起きたら生えていた」
「!?」
「ぎゃああ! ヘンタイさん!」
射美が怯えきった様子で距離を取った。学校襲撃時の体験からか、こいつは謦司郎をやたらと恐れている。
「ウサ耳には目もくれずに開口一番シモネタを言えるお前はある意味すげえよ……」
攻牙が呆然と呟く。
「はっはっは、三人ともおはよう。なんか凄いことになってるみたいだね」
謦司郎はいつもにこやかだ。
相変わらず背後から出てこないので確認できないが、間違いなくいい笑顔だ。
「まぁ要するにこの耳が朝起きたら生えていたってことらしいんだがよ」
「えっ、『生えていた』ってそっちのことだったのか……」
「急にどうでもよさそうな顔をするなよ! ……それで獣耳萌え〜とか言ってそうな世界にも精通している汎用人型決戦変態であるところのお前はこの有様になんか心当たりはねえか?」
「あぁ、これはあれだよ、何かの願望のメタファーなんじゃないかな。こう、体のある部分をもっと多く生やしたい的な。一本じゃ足りない的な」
「誰もお前の願望は聞いてねえ!」
射美は「フーケーツーでーごーわーす〜!」耳をふさぎながら走り去っていた。
結局、教室でもクラスメートに騒がれてもみくちゃにされる。
彼らの感想を総合すると、「かわいい」が一割、「シュール」が二割、「病院行け」が七割といったところだ。
そんな中、霧沙希藍浬の感想だけは篤を瞠目せしめた。
「す、諏訪原くん……」
彼女は白い繊手を二つとも口に当て、目を丸くしていた。
「む、霧沙希か」
篤は誇らしげな足取りで、藍浬に歩み寄った。
「どうだ、俺の頭蓋より生じたる二本の誉れ……は……っ?」
言葉が乱れる。
なぜなら、その誉れ高きウサ耳を、藍浬が無造作に掴んだからだ。
掴んだっていうか、握り締めた。
「き、霧沙希……!?」
「うーん……」
自らの
その間も、ウサ耳を掴んでニギニギ。
強い力が加わるたびに、篤の眉はピクピクと動いた。
「んん〜……」
数秒経っても、藍浬は思案顔。
だんだん汗を流しはじめる篤。なんか、尻尾を掴まれたトカゲの気分。
トカゲと違うのは、切り離して逃げることができないという点である。
藍浬は、親指の腹でウサ耳の毛並みをさすりつつ、人差し指と中指で挟んだり、先っぽの方を小指で弾いたりする。
その手つきに淫猥な妄想を膨らませた謦司郎が息を荒げすぎて過呼吸に陥ると言うハプニングがあったものの、二人の間には何の影響ももたらさなかった。
やがて、考えがまとまったのか、藍浬は燦々と微笑んだ。
「かわいいっていうのはもちろんだけど、どちらかというと綺麗、かな? アサンブラージュ的な何かを感じます」
「おぉ……」
篤は思わず藍浬に手を差し出した。
「この、かそけき曲線と無垢なる白皙が織り成す秘めやかな美を認識してくれたのは、お前だけだ」
「う、うん、どういたしまして」
藍浬はびっくりしたように篤の手を見ていたが、やがて躊躇いがちに握り返した。
つつましやかな、シェイクハンド。
触れ合った藍浬の手は、篤のそれよりも少し熱を持っていた。
チャイムが鳴った。
●
かくしてようやく期末試験一日目は始まり、終わった。
席を立つ生徒たちの喧騒で、にわかに慌ただしくなる教室。
「うむ、死力は尽くした。たとえ今死ぬとしても、悔いは残るまい」
「死んだ! ボクの夏休みは死んだ! 蘇生不能!」
「うーん、わたしはちょっと地理があぶないかも?」
「ところで、税務署の地図記号って卑猥だよね……」
篤、攻牙、藍浬、謦司郎の四人は、それぞれの思いを胸に、顔を突き合わせた。
「……忘れていたことがあるんだぜ」
攻牙が神妙な顔で口を開く。
「何だ。トイレは廊下に出て右に曲ったところだぞ」
「誰がそんなことを忘れたっつったよ!」
短い腕を振り回す攻牙。
「今朝学校に行くときに襲い掛かってきたイケメン変態がいただろ! あいつのことだ!」
「いやいや、イケメンなんて、そんな……」
謦司郎が照れくさそうに言った。
「確かにお前もイケメンで変態で学校行くとき襲い掛かってきたけど違う! 今言いたいのはお前のことじゃない!」
「……ひょっとして、鋼原さんのお友達が来ちゃったの?」
うまい具合に藍浬が話を戻した。
「あぁ、あのタレ目の男か」
篤がぽんと手を打った。
「そいつに関してなんか対策とか立てなくていいのか? 見た感じ鋼原リバースブラッド℃ヒ美よりやっかいそうな感じがしたが」
「ふぅむ……そうだな」
――実際のところ。
やっかい、どころの騒ぎではない気がした。
登校中の交戦において、篤は敵にバス停を抜かせることすらできなかったのだ。
それよりなにより、あの男には今までの相手にない凄みがある。
呼吸をするように人を殺める気配。今日の天気の話をする片手間に人を殺める気配。
ゾンネルダークもしきりに殺す殺すと叫んでいたが、あれはもう逆上したチンピラが吼えているのと大差はない。
タグトゥマダークの挙動からは、おぞましいほどの「慣れ」と「倦怠」が漂っていた。殺す、という現実を、どうということのない日常として捉えている、生物として壊れてしまった存在――
だが、それよりなにより。
――死にたい! 死のう!
その言葉。
どこか、ひどく、心をかき乱すセンテンス。
自分の切腹にも通ずる、自害の宣言。
だが、何かが違う。その言葉は、意図する行為が自分と同じでありながら、それを成そうとする理由に致命的な捻じれがあるように思う。自分の肺腑に、粘い石油を流しこまれるような気分にさせる、異様な捻じれ。
篤は小さく首を振る。
――考えすぎだな。
息を吐いた。
「確かに、解明しておく必要はあるかもしれない――」
篤は重々しい光を瞳に宿した。
「――なぜあの男は途中から突然珍妙な語尾を使い始めたのかということを」
「いやそっちじゃねえよ! 気になるけど! 確かに気になるけどそっちじゃねえよ!」
「へえ、今度の敵はどんな語尾だったんだい?」
謦司郎が面白そうに聞いてくる。
――そういえば、謦司郎と霧沙希は、まだタグトゥマダークを知らなかったな。
篤は謦司郎に目を向けた(が、すぐに謦司郎はその場を移動した)。
「うむ、『ニャン』だ」
「『ニャン』?」
背後で謦司郎が聞き返す。
「そう、『ニャン』だ」
「『娘』を中国読みした時の『ニャン』?」
なぜ例えがそれなのか。
「否、『ニャンがニャンだーニャンダーかめん』の『ニャン』だ」
「あぁ、なるほど」
「違いがわからねえよ!」
叫ぶ攻牙。
そこへ、躊躇いがちな声が被さった。
「あの、ね……ちょっといい?」
藍浬だった。
なぜかしきりに篤のウサ耳を見ている。
「そのかわいい語尾の人、さ……ひょっとしてネコの耳なんて生えてなかった……?」
「!?」
篤と攻牙は黙り込んだ。
互いに目を配りあう。
――もちろん、ネコ耳を確認したわけではない、のだが……
タグトゥマダークは、頭にニット帽をかぶっていた。今にして思えば、あれはかなり不自然だ。すでに汗ばむような季節である。だいたいスーツ姿にニット帽は似合わない。
篤が腕を組む。
「ネコの耳かどうかはわからんが、頭を隠している感じはあったな」
攻牙は胡乱げに眉を寄せる。
「だけどよー霧沙希。なんでネコ耳なんだ? いくら語尾が『ニャン』だからってそんな突拍子もないことが……」
攻牙は篤の頭を見る。
「……いやまぁあるけどさ」
「うん、わたしも半信半疑っていうか……正直関係があるのかどうかわからないんだけど……」
「何のことだ?」
「ちょっと、ついてきてくれる?」
藍浬が席を立つ。
「?」
篤、攻牙、謦司郎は、何だかわからないながらも彼女の後につづいた。
校舎の裏側、体育倉庫の陰に隠れて、ダンボールがひとつ置いてあった。
近づいてくる気配を察したのか、中から「みゅぅ、みゅぅ」とか細い鳴き声が漂ってくる。
「あっくん、たーくん、いい子にしてた?」
藍浬はダンボールの前にしゃがみ込み、小声で呼びかけながら蓋を開けた。
「おお〜」
攻牙が覗き込んで声を上げる。
中には、ひどく小さな毛玉が二つ入っていた。いや、毛玉というか、小さな哺乳類のようだ。
藍浬の顔を見ると、二足で立ち上がってダンボール箱の壁に前足をつけた。「みゅう!」
「ふふ、ちょっと凶悪よね、このかわいさは」
藍浬が両手を伸ばして二匹をやさしく掴む。
こちらに向き直り、自分の頬に押し付けるように抱き上げた。
「今朝、拾いました」
左手の子兎を持ち上げた。
「こっちが『あっくん』」
右手の子猫を持ち上げた。
「こっちが『たーくん』です」
謦司郎がしみじみと頷く。
「なるほど、二匹あわせて『肉色の花園』というわけだね」
「なんでだよ!」
何も関係がない。
篤はおもむろに歩み寄り、あっくんとたーくんを観察する。
「ふむ……」
顎に手を当て、まじまじと見つめる。
子兎――あっくんと、目が合った。
「……似ている」
「えっ?」
「あっくんに触ってもよいか?」
「う、うん」
藍浬からあっくんを受け取ると、顔の前に持ち上げた。
いきなり見知らぬ者に触れられたにも関わらず、子兎のあっくんはまったく動じる気配がない。みじろきひとつせず、篤の瞳を見つめている。
篤の眠そうな眼。あっくんのつぶらな眼。
視線を介して、何かがつながった気がした。
行き交う精神。静謐なそれ。
自分と同じ存在に出会ったという実感。出会えたという奇跡。
突き動かされるままに、あっくんを自分の頭の上に乗せた。ウサ耳の間に、ちょこんと稚い生命が乗っかる。
あっくんは、鼻をフンフンと動かして、ウサ耳の匂いを嗅ぐ。すぐにその場にうずくまり、ぶっとい前脚に頭を乗せながら、リラックスした様子で眼を細めた。
「おぉ――浮世を編み出す縁の、なんと趣き深きことよ」
篤は眼を閉じて、裡より生じた感動を味わう。
あっくんの落ち着き払った物腰に、自分と同じ『常住死身』の在り方を感ずる。
篤は眼を開き、あっけにとられている級友たちを見た。
「どうやら、アドバイザーを呼ぶ必要がありそうだ」
「ど、どういうこと?」
「尋常ならざる事態が発生している」
「まぁお前にウサ耳が生えた時点ですでに尋常じゃないけどな」
耳をほじる攻牙に向き直ると、篤は言った。
「攻牙よ」
「なんだ?」
「ケタイデンワの操縦方法を教えてくれ」
「お前が何を言いたいのかはわかるが伸ばし棒が足らねえよ!」
「ケーターイデーンワーの操縦方ほ……」
「番号だけ言え! ボクがかけてやるから!」
「む、すまんな」
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